ゆずでは、個別療育でご来所のお子さんに対しては、週2回以上の頻度での通所をお勧めしています。
その理由は、個別療育を週2回以上受けることで、脳の発達が促されるからです。
今回の「療育のイロハ」では、これから療育を始める方に向けて、「効果的な療育の受け方のコツ」についてご紹介します。
公的療育機関は、月2回程度が上限
週2回以上の頻度が効果的であるというお話の前に、公的療育機関はどんな頻度なのか、ということについて少しお話しておきましょう
療育機関(神戸の場合)では、月2回が上限であることが多いです。
これは、公的療育機関の役割として、「多くの方に、広く、そして平等にサービスを提供する必要があるから」です。
つまり、公的機関は、平等が何より大切な役割です。
バランスよく市民サービスを行わないといけないため、療育効果(頻度を高くすることで効果を出す)は二の次にならざるを得ません。
このこと自体は、行政の問題ではないことを理解しておくことが大切です。
あくまでも公的機関は、市民サービスに偏りが出ないよう(どなたにも平等に受けていただけるよう)配慮することが重要なのです(神戸市立の療育機関に勤務していた私が言うのだから間違いありません(笑))。
だから、安易に「公的療育機関は不親切」と決めつけてはいけません(そういっても、不親切な公的療育機関も多いのが現状ですけれどね。ひどいところは、本当にエゲツないです)。
週2回以上通うのが効果的な理由は、側頭葉と小脳での記憶保持につながるから
では、個別療育の積み重ねを行うために、サービス機関をどのように選択するのがよいでしょうか。
それは、週1回以上、できれば週2回以上の頻度で通所できる環境を持つことです。
なぜ週2回かということには、理由があります。
それは、精神科医である樺沢紫苑先生の言葉を借りると「人間の脳は、2週間に3回以上使った情報(意識した情報)は、長期的に脳に定着する」からです(これは大脳の側頭葉という部分を使います)。
またそれとは別に、「体で覚える」「パターンとして習慣付ける」ためには、小脳へ刺激を入れる必要があるのですが、小脳に経験を蓄積させるためには、「繰り返すこと」「失敗経験をさせること」がポイントになります。
このことを、療育の頻度で考えてみると、週2回の実施では2週間で4回になるため、長期記憶として側頭葉や小脳に定着しやすくなります。つまり、取り組んだことが効果的なものになるのです。
このように、療育の積み重ねや効果を上げたい場合は、脳の発達の観点から見ると、週2回以上の頻度で療育に通うことが良い、ということになります。
一夜漬けよりも、毎日少しずつ勉強するほうが、頭が良くなるというのと同じですね。
単に通う頻度を上げればいいわけではない
「うちは週に2回以上通っているから、良かった!」と安心された方は、ちょっと待って下さい!
実は、週2回療育に通っているからといって、手放しでは安心できません。留意しておくことがあるのです。
それは以下の2点です。
1.療育で何をしているか(療育内容)によって、療育の効果が変わる。
2.複数の療育を沢山受けることはデメリットの方が多い。
一つずつ見ていきましょう。
1.療育で何をしているか(療育内容)によって、療育の効果が変わる。
療育においては、脳に刺激を入れることで、脳を育てる取り組みが必要です。
定型発達のお子さんと違い、発達特性や発達障害のあるお子さんの場合、単に遊んでいるだけでは脳を十分に発達させることはできません。
そのため、目的を持った遊びを展開し、遊びの中で発達を評価することが大切です。
ただし、「脳を育てる」といっても、何も「脳開発」のことを言っているのではありませんので間違えないようにしましょう。
何か特殊なことをすることが、脳を発達させるということではないのです。
例えば、脳開発といえば、「フラッシュカード」を使った取り組みが、その代表かも知れませんね。
しかし、そもそもフラッシュカードを用いた脳開発(右脳開発など)は、医学的な根拠は証明されていません。正確に言うと、「効果がないという医学的根拠も、効果があるという医学的根拠もない」のが現状です。
例えば、脳科学者の澤口俊之先生は、自身のブログ(脳科学者はかく稽ふ)の中で、これまで発表された研究結果を調査し、
従って,フラッシュカードは幼児では脳機能の発達を阻害する,と結論できる。
と書いています。
実は、脳というのは、右脳を鍛える、というようなものではありません。
脳は左脳と右脳がそれぞれに独立して機能するのではなく、左右の脳をつないでいる橋になった部分(脳梁と言います)での情報交換の能力に依るところが大きいのです。
つまり、右脳と左脳を別のものとして捉えるのではなく、脳梁を介して左右の脳をバランスよく使うことが、脳の発達には大事である、ということです。
また、巷にある「脳教育」が、本当に効果があるなら、例えば病院や公的療育機関ですでに取り入れられているはずです。
反対に言うと、公的療育機関や病院で取り入れられているものは、概ね医学的根拠があり、効果的であると判断されているものと捉えていいでしょう。
少し話がそれましたね。
では、私が言う「療育により脳を育てる」とはどういうことを指すのかについて、簡単に説明します。
例えば、子どもが言葉が出るまでには、感覚統合やボディイメージ、認知力など様々な基礎が育っておく必要があります。
つまり、言葉が出ていないからといって、絵カードを見せて「これは、りんごだよ。はい!りんごって言ってみて!」という練習を何時間したところで、意味のある言葉として覚えることはできません。
なぜなら、まずこのりんごを意識の中で捉えていること、そしてりんごに興味関心をもっていること、お母さんやお父さんのいう「りんご」という言葉と、目の前にある赤くて丸いものが一致していること、これらが言葉が出る前の基礎となります。
つまり、育ちの基礎が出来ていないと、言葉も体も認知も発達しないのです。
そして、この基礎を作るのが遊びです。
定型発達の子どもの場合は、自分で興味をもって、自分で遊ぼうと手を伸ばしたり、口に持っていって確認したりします。
しかし発達特性のあるお子さんの場合、そのもの自体に興味や関心が向きにくいことが多々あります。
そうなると、「勝手に自分で遊びながら、勝手に一人で覚えていく」ということには繋がりにくいのです。
だから、こういったお子さんには、「適切な遊びをプロデュースしてあげる」ことが大切になります。
そして、その前段階として、「どのような遊びを展開することが、この子の脳を発達させることにつながるのか」を考える根拠として、「遊びの中で、適切に評価をすること」が大前提になります。
つまり、「子どもの特性を評価する⇨評価結果に基づいた遊びを展開する⇨再度評価し、提供した遊びに効果があったのか確認する」ことが重要になります。
ここまで読んでお分かりだと思いますが、大事なのは正しく評価することなのです。評価がすべてのスタートラインになるのです。
評価を行い、効果的だと考えられる遊びを検討し、週に2回以上の取り組みをする中で、脳の発達を図っていくことが大切です。
療育センターなどの公的療育機関では、何よりも先に評価をします。
反対に、評価もなくいきなり遊ぶような療育を受けているなら、お子さんの持っている最大の能力は引き出されないでしょう。
2.複数の療育を沢山受けることはデメリットの方が多い
脳を発達させるためには、「多くの刺激を入れることができれば、より効果的かも」と思い、複数の療育機関でできるだけ沢山療育を受けさせる、といった方法をお考えになる方もおられると思います。
ですが、複数療育を受けることはメリットもある反面、デメリットの方が多いために注意が必要です。
いくつかデメリットをご紹介しましょう。
・毎日違う取り組みを行うことになるため、長期記憶として定着しにくい。
・担当者の方針が人によって(施設によって)変わるので、練習の積み重ねが行いにくい。または子どもが混乱してしまう。
・毎日、色々な療育先に行くので、体力的に疲労してしまう(発達障害のあるお子さんの場合、疲労が様々な生活上の問題を引き起こすことがあります)。
・効果が認められた場合、「どの取り組みが効果的であったのか」が分からない。
こういったデメリットを理解しておきましょう。
また、最後の項目は、今後も療育を続けていくにあたって「どのような関わり方をすることが、我が子にとって最適なことなのか」を知ることができない、というデメリットになってしまいます。
我が子に合った取り組み方(方法)を幼児期に知っておくか、知らないままかでは、小学校以降になってから大きな差となりますので、注意が必要です。
(補足)
ここでいう施設の併用は「複数の療育事業所へ通うこと」であり、「幼稚園や保育園と療育に並行して通うこと」ではありません。
むしろ幼稚園や保育園と療育施設がお互いの立場を尊重しながら、両輪の如く発達促進を図っていくことができれば、最大の効果を生むことにつながるでしょう。
まとめ
それでは最後に今回の記事のまとめです。
・療育の頻度は、同じ場所で週に2回以上通うのが、脳の発達の観点からもお勧めです。
・療育の内容がどんなものであるかも注意して見ておくようにしましょう。
・頻度が多いと効果的だからといって、たくさんの施設に通ってもデメリットが多いので注意しましょう。
・遊びの中で評価し、遊びプログラムを実践し、効果について評価してくれる療育先を探しましょう。
・幼稚園・保育園と療育を並行して利用することは、(園の協力が得られれば)最も効果的な取り組みだと言えるでしょう。
お子さんの脳を発達させるために、上手く療育を活用してくださいね。
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