「落ち着きがないのは、親の躾が悪いからだ」「わがままなのは、育て方が悪いからだ」などと言われた経験をお持ちの方もおられると思います。
そして、「自分が悪いのだろうか」と悩んでおられる方もおられることでしょう。
はっきり言います。
自閉スペクトラム症などの発達障害と親の育て方は、全く関係しません。
脳の神経ネットワークの作りが、そもそも違うことが理由です。
つまり、医学的な視点で見ると、しつけだとか育て方が原因なんて、失笑するくらいナンセンスなお話です。
じゃあ、どうしてそういうことを言う人が後をたたないのか。
それは、2つの理由があると思います。
一つは、そういった医学的根拠を知らないので、「何となく自分の感覚でそう思うから」「自分の子育て経験からそう思うから」などという曖昧な印象で話しているから。
もう一つは、(日本文化的思考といってもいいですが)「努力すれば必ず道は開く」「根性があればどんなことでも好転できる」といった「根性論」が好きだから、です。
特に二つ目の根性論は、療育でもよく見られると思います。
「嫌な感覚刺激でも、何度も繰り返し体験させると、慣れますよ」「きちんと躾けることで、じっと座れるようになりますよ」などです。
こういう言葉、聞きませんか?世間一般でも、ネットの世界でも、よく聞きますよね。
でも。
「根性や努力では、どうにもならない」ことは世の中には、山のようにあります。
療育センターの診察や心理士さんの発達検査の場面などで、「お母さん、厳しくしないとよくなりませんよ」「嫌なことでも、頑張らせなさい」などと言われたことはないと思います。
それはなぜでしょう。
厳しく躾けることと、発達特性とは医学的に見て、何の関係もないからです。
当たり前過ぎて、「そんなことないですよ」ということすら言わないくらい、ナンセンスなことなのです。
つまり、「発達障害は親の躾の問題」「甘やかすからダメなんだ」「厳しく躾ければ、できるようになる」という人は、トーシロです。
分かります?トーシロ。「素人」ですね。
だから、そういう言葉を真に受けて、「私の育て方が悪いのかな?」「厳しく躾けないとダメなのかな?」などと悩む必要は、ゼロです。
反対に、その言葉を真に受けて、(本当はしたくないのに)子どもに厳しく対応してしまうと、子どもの自信は(ただでさえ低い子が多いのに)どんどんなくなっていき、自己肯定感の低い子どもに育ってしまうでしょう。
それともう一つ。
そういった発言になる根本には、「(いわゆる)定型発達の子どもに近づける必要がある」という思考があるからです。
分かりやすく言うと、「体に合っていない椅子に子どもの体を無理やり合わせていく」というイメージです。
最初にも言いましたが、そもそも脳神経のネットワークが、発達特性のあるお子さんと定型発達のお子さん(あるいはお母さん・お父さん)では違います。
そして、今の医学では、脳神経のネットワークを変えることはできません。無理なものは無理です。
それを厳しく躾けたらできると思いますか?ここがナンセンスだという根拠です。
「ちょっと待った!!うちの子は厳しく躾ける療育に通って、我慢ができるようになってきました!それは厳しく躾けることも効果があるということではないですか?」
というお声もあるかもしれません。
では、質問します。
脳神経のネットワークが変化したということを証明できますか?
見た目で変化した、ということですよね。
ということは、厳しく躾けることで、「怖いから言うことを聞いているだけ」ということはないですか?ただでさえ敏感なお子さんが多いのです。「大人の怖い表情や威圧的な声におびえて、言うことを聞いているだけ」ということはないですか?
厳しく躾けて言うことを聞くようになった反面、自分からの発信が少なくなった、ということはないですか?
療育の先生の言うことをよく聞くようになったけど、その反面先生の顔を上目遣いに見るようになった、ということはないですか?
自分のしたいことをする前に、一度大人の顔を見てから(顔色を伺ってから)するようになっていませんか?
こういった反応が出ているなら、失敗です。そこから再度自分に自信をもたせるには、相当の時間と労力がかかりますし、「これ以上無理」なこともあるでしょう。
だから、そうならないようにしておくことが大事なのです。
少し本題とずれましたので、まとめに入りましょう。
発達障害や発達特性のあるお子さんの脳神経は、定型発達のお子さんとは違う作り(ネットワーク)になっているので、厳しく躾けて(根性論で)定型発達の子どもに合わせさせようという取り組みは、効果的ではありません。
では、どうすればいいの?諦めろということが言いたいの?
いいえ違います。
取り組むべき方向を変えようと言っているのです。
方向とは以下の通りです。
- まずどういった特性があるのかをしっかり評価してもらう
- 「どのように接してあげると、安心して自分を出すことができるのか」「どのように関わってあげるのが、自信につながるのか」を探る
- 方針が決まったら、療育でも日常でも、お子さんに関わる大人全員がその方針に則って対応していく
評価がないと、本当の課題が見えません。本当の課題が見えないと、本当に必要とされる方針が決まりません。
そのためには、根性論でどうにかなると思っている第三者の意見、そして我が子の人生に責任をとってくれることもない赤の他人の意見に一喜一憂しないようにしましょう。
「我が子にとって何が必要なのか」「なぜ、このような行動が起こるのか」について正しく理解し、定型発達に無理やり合わせさせるのではなく、社会の中で我が子なりに「折り合いをつけながら暮らしていくための、最も効果的で負担のない方法を考えてあげる」ことを大切にしてあげてください。
大事なことなので、最後にもう一度。
発達障害や特性は、親の躾けとは100%関係しません。
厳しく躾けることは、何の効果も生み出しません。
無責任な発言をする第三者から、大切な我が子を守ってあげてください。