保育所等訪問支援事業があまり知られていない2つの理由
保育所等訪問支援事業を1年間運営してきて、感じたこと。
①通所事業(児発・放デイ)を凌駕するほどの療育効果がある。
②効果を引き出せるかどうかは訪問支援員の質によるところが大きく、質の高い支援員を確保できるかが最大の課題。
③社会的認知度がまだ低い
もう1年かけて検証していきます。— 西村 猛@社長理学療法士×療育系YouTuber&voicyパーソナリティ (@seinosuke2013) August 6, 2021
保育所等訪問支援事業は、通所タイプの療育と比べて、知名度が低くとても地味です。
知名度が低い理由のひとつは、文字が長いので、「ちょっと、何を言いたいのか分からない」ということ。
もうひとつは、「療育に通うことこそが、子どもを伸ばす」と理解されている方が多いこと、です。
一つ目の「文字が長い」、というのは「まじそれな!」という感じですね😅
まあ、これは役所(国)の考える文言なので、こんなものです。役所はわざと難解な言葉を使うのが通例です(私の公務員時代にも、こういった難解な言葉が役所の中で氾濫していました)。
保育所等を療育の専門家が訪問して、直接的にまたは間接的に支援を行う事業
意味が分からないわけではないので、良しとしましょう。
それよりも、ここでは二つ目の「療育に通うことこそが、子どもを伸ばすと理解されている」ことについて、少し掘り下げましょう。
例えば、療育センターや病院で自閉症スペクトラムと診断を受けたとします。
そこで言われるのが、「療育に通われてはいかがでしょうか?」です。
「お子さんの通っている保育園に、療育スタッフの方に来てもらったらいかがでしょうか?」と言われることは皆無なわけです。
それは、診断を付けている医師でさえ、療育は通って受けるもの(病院でいうと、通院するような意味)と考えている、ということです。
専門家がそう言うのだから、そう思いますよね。
そして、こんな風にして療育が進んでいきます。
「療育センターで、療育をお勧めされたし、療育に通わないと!」
そこで、療育事業所探しを始めます。
すぐにいい事業所が見つかり、はじめは泣いていた我が子も、今では楽しく通えています。
療育の担当の先生もいい方で、これから就学に向けて子どもの発達を見守っていくことになりました。
よかった、よかった。
これで一安心です。
ところが。
保育園(幼稚園)では、困りごとが残っていました。
お友達との関係づくりが難しかったり、皆で活動する時に一緒にできずその場から離れてしまうことも。
園の先生は、療育に通っていることをご存知なので、我が子に丁寧に関わってくれようとしています。
でも、「どう声を掛ければいいのか分からない」「こういうときは叱った方がいいの?それとも自由にさせておいていいの?」など、先生自身の悩みも尽きません。
「何かしてあげないと!」と思っても、どうすればいいのか分かりません。
療育では、あんなに楽しそうなのに、園では泣いたり、喧嘩になったり、行きたくないという声も聞かれるようになってきたり、どうしたらいいのだろう?今の園が合っていないのかな?
最近不安が募ってきました。。。
いかがでしょうか。こういった事例は、実は結構あります。
園生活(つまり地域社会生活)の中では、療育場面のように、上手く行かないことが多いものです。
それはある意味当たり前ですよね。
療育は、その子に合わせたプログラムを行ったり、特性を十分に理解しているので、お子さんが過ごしやすいようにカスタマイズされているからです(そうじゃない療育もある!というご意見もあるかも知れませんが、それは特殊です)。
でも、地域社会生活では、療育場面のように、用意された環境ではありません。
じゃあ、どうすれば園や学校生活をより快適にすることができるか、について考えたいと思います。
もうお気づきですよね。
保育所等訪問支援事業を利用する。
これで状況は好転していきます。
もちろん、時間がかかるものなので、手品のように「パッと変えてみろ」と言われると困ってしまいますが。
ところで、保育園や幼稚園で上手く行かないことがあると、こんな風に考える保護者の方もおられるかも知れません。
園での生活が上手くいくように、療育事業所でスキルを上げてもらおう!
それは、半分は正解ですが、半分は間違いです。
え?半分は正解って、何?と思われましたか?
療育で園の困りごとを解決するためには、以下のような条件が揃った時です。
・療育事業所スタッフが、保育園等での生活場面の困りごとを想定できている。
・療育場面の中で、どのような関わりをすることが園での困りごとを解決することにつながるかを理解し、実践できる。
・療育事業所スタッフが、「繰り返し練習すればできるようになる」とは考えていない。
・園での具体的な手立てについて、お母さん・お父さんに説明することができる。
もし、お子さんが、こういった事業所に通っておられるなら、とても安心できると思います。
ですが、もしこういったことをクリアしてないのでは?と思われるなら、園や学校での困りごとはなかなか解決しないでしょう。
療育には気分良く通うけれど、園や学校には行き渋る原因はこういうところにあるのです。
ゆずでは、「療育に通っていただければ、園でのお困りごとも解決しますよ!」などと魅力的な言葉は絶対言いません。
療育に通っているだけでは、不十分だからです。
ゆずではどう説明するかというと、「園での困りごとを解決する意味でも療育は有効ですが、それには園での課題や問題を実際に見てみないと分からないです」と言います。
こういう時は、こうすればいい、なんて王道的な方法なんてないのです。
「園生活での困りごとは、療育事業所で起こっているんじゃない!現場で起こっているんだ!」(by青島警部補)
現場での困りごとは、現場じゃないと分からない。
それじゃあ、療育の専門家を「困りごとの現場」に行ってもらおう。
というのが、保育所等訪問支援事業の主旨です。
極端な話ですが、療育事業所にいくら通っても解決しなかった園での困りごとが、たった一回の訪問支援で解決する(困りごとの手立てが分かる)ことだってあるのです(ただし、後述する訪問支援者のスキルによります)。
こういったことから、療育事業所に通うことより「療育の専門家に、園に行ってもらう」ことの方が大切だ、ということがお分かりになったと思います。
実際に、ゆずでは言語聴覚士や作業療法士などの専門家が、園や学校を訪問していますが、利用されている保護者の方から「効果がないようなので、訪問支援の利用は止めます」と言われたことがありません(園側から「うちはそういった受入はしていません」と断られて止めざるを得ないことはあります)。
お分かりいただけたでしょうか?
餅は餅屋。
園での困りごとは、訪問支援事業を利用するのが最適解です。
よくある誤解!「我が子のことをよく知っている先生(療育担当の先生)が訪問してくれるのがいい」という勘違い
保育所等訪問支援事業をお願いする時に、「我が子を知ってくれている先生が行ってくれるかどうか」を気にされる保護者の方もおられますが、それはあまり重要ではないです。
例えばOTやSTなどのセラピストは、訪問前の事前情報があれば、その場(保育場面など)を見ることでお子さんの評価はできます。— 西村 猛@社長理学療法士×療育系YouTuber&voicyパーソナリティ (@seinosuke2013) August 6, 2021
実際に、保護者の方からよく伺う言葉です。
「この子を担当してもらっている先生に行っていただくのがいいですよね?」
答えは、「知ってもらっている先生に行ってもらったから上手くいく、とは限らない」です。
ややこしいですか?😅
つまり、訪問支援は「お子さんのことをよく知っていれば上手くできる」というものではない、ということです。
訪問支援スキル、というものが何より必要になるのです。
実はここが、訪問支援事業が発展していかない最大の理由です。
療育事業所で子どもを担当しているスキルとはまた違った、より特殊で高度なスキルが必要になります。
なぜ、そんなスキルが必要となるのか?
答えは簡単。
療育事業所は、ホームです(担当者にとって)。
訪問先は、アウェイ(自分の職場ではない)です。
お子さんの状況を伝え、理解していただき、日々の中で実践していただく。
こういったことをお伝えするのに、ホームとアウェイ、どちらが難しいでしょうか?
具体的な例で言うと、
【ホーム】
「Aくんの通う保育園の先生が、自分の事業所に見学に来られ、Aくんの療育内容やAくんの特性について説明する」
【アウェイ】
「自分がAくんの通う保育園に行って、見学だけでなくAくんの園での過ごし方や先生の関わり方などを園の先生と共有し、理解を得る」
どっちが難しいでしょう?火を見るより明らかですよね。
つまり、訪問支援には、支援員に一定のスキルが求められる、と言うわけです。
また、療育事業所での療育とは違い、「また明日(次回)に考えよう」と次回に繰り越すことができないことが多いです(その場で課題を見つけ、その場で手立てをお伝えする必要があります)。
私の具体例で紹介します。
某自治体からご依頼を受け、定期的な巡回相談を行っていました(保育所や幼稚園、こども園を回って、現場の保育士さんからのお困りごとや気になるお子さんの相談を受け、その対応方法を一緒に考え、助言をするという事業です)。
忙しい時だと、ひとクラス10分程度で、5クラスくらい回ります。
しかも、ひとクラスに担任の先生の「気になる子」が3人、4人といて、「AくんとBくんと、Cちゃんと、Dちゃんを見ていただけますか?」と。
知らない子ばかりの時だと、もう大変!
3〜4人の特性や課題を10分で見る。同時に具体的な手立てを考える。
それを連続5クラス。移動時間を入れて、60分一本勝負!!😅
で、その後、各クラスの担任の先生が別室に来られるので、そのクラスのお子さんの「特性」「評価内容」「課題」「具体的手立て」を、クラス担任に10分程度でまとめてお話。
終わったあと、ぐったりです。本当に脳が動かない状態になります。
脳を使いすぎて、訪問先から帰るエネルギーが残っていないという。。。
さすがにこれは、通常の訪問支援ではないですよ😅
ですが、訪問支援でもこのように、評価しながら課題を見つけ、同時に手立てを考える、という「同時進行」で脳を使う必要があるのです。
何が言いたいかというと、訪問支援にはこういったスキルが必要なのです、ということです。
さて、療育で我が子をよく知ってくれている先生が、こういったスキルがないとしたら、どうでしょう?
訪問支援は、訪問先で一定の効果を出すことができなければ、訪問先から「来てもらう意味があるの?」と思われてしまうリスクもあるのです。
もちろん反対に、「来てもらって、本当に助かっている」と感じていただけたなら、訪問支援員と園の先生との関係性がよくなり、ひいてはお子さんの手立てにつながり、結果お子さんの園生活が充実することにつながります。
だから、我が子をよく知ってくれていることと、園の先生と上手く連携が取ってもらえることは、決してイコールではないということです。
イコールの先生だったら、大当たりです。
ちなみにゆずでは、訪問支援員である言語聴覚士や作業療法士、公認心理師は、お子さんの個別療育を担当していませんが、園側から「他の人に変えてほしい」といった苦情をいただいたことは皆無です(プロですから当たり前ですが)。
すばらしい制度ですが、利用する際に気をつけておくべきこと
このように、保育所等訪問支援事業は、うまく活用することができれば、お子さんの園や学校での困りごとを解決するだけでなく「園や学校の先生が我が子をより理解してくれる」ことにつながり、毎日の生活をもっとハッピーにすることができます。
が、一点注意しておくべきことがあります。
それは、どこでお願いするかです。
その理由は上記で述べた訪問支援員のスキルも関係するのですが、それ以上に重要なことがあります。
それは、「訪問事業を収益増のためだけに実施している事業所ではないかどうかを確認してから利用をお願いしましょう」ということです。
現在、療育業界の利用料は、国の制度改定により、どんどんと下げられています。
そうなると、収益を上げるために、訪問支援事業をやっていこうとする事業所は増えてきます。
もちろん、それで訪問支援事業が活性化するなら、それはとてもいいことです。
また、収益を上げることは、事業所を継続して運営するためには大切なことです。
たまに療育支援者の方の中にも、「福祉はお金じゃない」と言った見当違いのことを言う人がいますが、そんなことを言っていたら事業所は潰れてしまいますし、「じゃあ、ボランティアで働いてね」と言うことになりますよね。
だから、事業によって収益を上げることは、事業所運営やスタッフに給料を支払う意味においても、なんら問題はありません。
ただし、一部の悪質な事業所が、収益増の目的だけのために訪問支援を標榜しているところもあります(※療育事業所のコンサルティング事業を行っていると、一部そういった事業所から問い合わせをいただくことがあります。問い合わせ内容はあまりに酷いので書けません😅「うわー、保護者やお子さんのことを、養分だと思っているな」という感じです。伝わりますか?😁)。
例えば、(保護者は訪問支援に同席しないこといいことに)園や学校の先生に、ああしろ、こうしろと上から目線で指導して、『二度と来てほしくない!』と拒否され保護者と園の関係性まで崩すということがあったり、オープンスクールの日にサッと短時間だけ訪問して保護者には「訪問してきましたよ」と報告したり、などというひどい現状もあります。
保護者は同席しないので、我が子に対してそんな風に対応されていることに気づかないままです。
こうなると、「どうやって信頼できる事業所を見つけるか」がポイントになりますよね。
つまり、訪問支援を成功させるかどうかは、「信頼できる事業所探し」にかかっていると言えるのです。
「信頼できる療育事業所探し」のコツ2つをご紹介
療育事業所なんて、どこでも一緒なんて思っていると、後悔します。
何度も出てきて恐縮ですが、療育事業所コンサルティング(の事前面談)をしていると、「あー、自分の子どもだったら、絶対ここにはお願いしないな」という事業所が(割合こそ低いですが)あります。
でも、そこに通っておられるお子さんと保護者の方は、気づいていないんですよね。その事業所の闇に😅
もちろん、そういった事業所さんからへのコンサルティングはお引き受けしません。
さて、話を戻して訪問支援事業の利用を考える時に「信頼できる事業所探し」のポイントを2つご紹介します。
- 相談時に、「どなたが、どのような訪問支援をしてくれるか」を聞く
- 強引に契約を勧めてくるかどうかを見る
①については、「どのような方が訪問支援を行ってくれるのでしょうか?」と聞けばいいです。
例えばゆずで質問があると、「ゆずでは作業療法士・言語聴覚士・公認心理師が支援員を行っていますが、支援員の訪問スケジュールの都合、お子様のお困りごとの状況を伺った上で担当者を判断しています。また園での課題が変わった場合や支援員の判断によって、別の職種の担当者が様子を拝見することもできます」などとお答えしています。
いわゆる手の内を全部見せてくれるかどうか、が見抜くポイントです。
「私たちにお任せいただければ大丈夫ですよ」「その都度検討していきますので、安心してください」など、抽象的な回答だと、裏の事情があると思ったほうがいいですね。
②については、「児童発達支援や放課後等デイサービス事業を契約するときには、セットで契約をお願いします」「(何のサービスかの十分な説明がないまま)とにかくこちらの契約書にもサインをお願いします」などと、保護者の方が納得していないにも関わらず、契約を急かせることがないかどうか見ておきましょう。
説明した上で、保護者の方が「じゃあお願いします」となって初めて契約に進みますし、万が一「やっぱりやめておきます」となった場合もそれ以上ゴリ押しはしない、というのが普通です。
ゆずでは、ゆずの訪問支援事業の効果について紹介した上でご利用促進を行いますが、保護者の方が「やめておきます」と判断した場合は、「分かりました。また利用を考えた際には、いつでも声をおかけくださいね」とお伝えすることを徹底させています。
まとめ
6,000文字に及ぶ長文をお読みいただき、ありがとうございました。
以下簡単にまとめます。
- 訪問支援事業は、通所療育以上に効果が高い
- 「どこで」「誰に」お願いするかで効果は変わる
- 失敗しない事業所選びのコツは、①誰が訪問してくれるのかを聞く②強引に契約を進めないかを見る
えー!たったこれだけのために、6,000文字も読まされたのー?!
と思うかも知れませんが、今これを読み切ったあなたは、他の人よりも「訪問支援事業に詳しい人」になっていると思いますので、許してくださいませ😊
お子さんにとって、そしてご家族にとって、有益な訪問支援が受けられ、お子さんの園や学校生活の質が今まで以上に高まることをお祈りいたします!
おまけ
ゆずの訪問支援を受けてみたいけど、他の事業所さんの訪問支援も受けているしなあ、という方へ。
ゆずでは、すでに別の事業所様で訪問支援事業をご契約されている場合は、そのままそちらの事業所様での訪問支援を継続されることをお勧めしています(ゆずに変えませんか?とは、絶対に言わないです)。
その理由は、別の事業所(ゆずです)の訪問支援員が伺うことで、園や学校の先生に混乱を生じさせるリスクがあり、それがお子さんにとってマイナス効果になるからです。
またゆずでは訪問支援員の空き枠が少ない(ご利用者多数のため訪問可能日数が限られる)ため、現在ゆずの児童発達支援をご利用の方や、(ゆずのご利用がなくても)現在訪問支援を利用されていない方を優先させていただいています。
すでに他事業所様をご利用の方については、(効果を引き出すためにも)そのままそちらの訪問支援をご利用されることをオススメします。