言語聴覚士むぎちょこ
療育センターに勤務していた頃から、保護者の方から「私(お母さん)の言っている言葉は、分かっているようなのですが、なぜ言葉が出ないのでしょうか?」というご質問をよくいただきました。
今回は、このことについて、お話したいと思います。
まず大前提として押さえておいていただきたいことがあります。
それは、「言葉を理解しているからと言って、言葉が出てくるわけではない」ということです。
もちろん、言葉が出るためには、言葉の理解は必須なのですが、大切なのは「理解している言葉や事柄がどのくらいあるか」というところです。
理解している言葉や事柄を「コップに入っている水」に例えてみます。
例えばコップの半分くらいしか理解していないと、言葉はまだ出ません。
ほとんど一杯になっていても、まだ出ません。
やがてコップの水がいっぱいになると、コップから水は溢れ出しますよね。
これが、「出てくる言葉」です。
つまり、半分くらいの言葉数の理解では、理解していても言葉は出てこない状態、ということになります。
「じゃあ、もっとたくさんの言葉を覚えさせたらいいの?」と思われるかもしれませんが、お母さんが言葉そのものを繰り返しお子さんに投げかけても、お子さんの理解にはつながりません。
言葉だけを聞いても理解ができないからです。
「場面に合った言葉をかける」「子どもの負担に感じない程度に留めておく」などが、上手な言葉かけの仕方です。
あまり一気にたくさんの言葉かけをしたり、「言ってみなさい」などの声掛けをして、お子さんにプレッシャーを与えてしまうと、お子さんの許容量を超えて、反対にしゃべることに対して恐怖感や苦手感を持ってしまいます。
そうなると、余計に言葉が出てこなくなるので、注意が必要です。
では、どうすればいいか、ということを次にお話したいと思います。
まずは、コップの水が溢れるまでの間(自然に言葉が出てくるまでの間)は、無理に喋らそうとしないことです。
次に、言葉を教えていくのですが、その方法は「場面に合った言葉を、お子さんにさりげなく聞かせていく」ことです。
この時に、決して「言ってみなさい」とお子さんの発語を引き出そうとしてはいけません。
あくまでも、状況に合った言葉を掛けてあげるだけにしておきましょう。
例えば、踏切で電車を見ていたら「電車が来たね」「電車、早いね」など、お子さんが見ている状況に言葉を乗せてあげるなどです。
やがてお子さんのコップの水がいっぱいになってきたら、「お子さんが自発的に言葉が出るような環境を作ってあげる」ことがポイントです。
覚えた言葉を場面に合わせて、自然に出せるようなきっかけを作ってあげる、ということですね。
ここで、「コップの水がいっぱいになったかどうか、どう見極めるの?」「自然に言葉が出るようなきっかけって、どう作ればいいの?」と疑問を持たれた方もおられると思います。
これについては、お子さんの評価をした上で、「今、どのくらいの言葉を理解しているか」「どのような環境設定がお子さんにとって効果的か」を個別に考えていく必要があります。
この判断は言語聴覚士でなければ難しいと思いますので、ゆずをご利用の方は、個別にご相談くださいね。
他の療育事業所さんに通っておれる方は、その療育事業所さんにおられる言語聴覚士さんにお尋ねください。
いかがだったでしょうか。
言葉がまだ出ないお子さんの場合、「どの程度までお母さんやお父さんの言うことを理解しているか」を正しく評価すること、「言葉が出やすいきっかけ作り(環境設定)」がとても大事になってきます。
つい、「早く喋って欲しい」と焦る気持ちはよく分かりますが、まずはお子さんの現状について、言語聴覚士さんに正しく評価してもらい、具体的な関わり方の方法を教えてもらうようにしてくださいね。